佐藤日田路句集『不存在証明』

 著者佐藤さんは「亜流亜(あるさと)」(代表は中村猛虎氏、姫路市)と「海光」(代表は林誠司氏)の会員で、このほど林さんの俳句アトラスから第一句集を出された(令和2年2月1日)。俳歴は15年ほどと思われるが、一時「海程」にも参加していた。跋は林氏。


佐藤日田路句集.jpg


 自選12句は次の通り。

  青空を動かさぬよう魞を挿す
  サーカスの転校生と桜餅
  名をつけて子は親となる著莪の花
  色鯉の口に暗黒入りにけり
  勉強がきらいな僕と蝸牛
  駄菓子屋は間口一間大西日
  心臓に手足が生えて阿波踊
  穴惑いあなたが尻尾踏んでいる
  芋の露母さん僕は元気です
  懐手笑いどころを間違える
  踵うつくし霜柱踏めばもっと
  肉体は死を運ぶ舟冬の月

「駄菓子屋」のような写生的な句があるが、「芋の露」や最後の句「冬の月」のような季語を配合した句、「サーカスの転校生」のようなノスタルジー豊かな作品などなどが一体となって佐藤俳句の世界を表出している。「阿波踊」など、モノやコトを見ての描写が巧みである。

 筆者の共感句は次の通り。(*)印は自選句と重なったもの。

017 手首より大人びてゆく白日傘
027 うららかや空から梯子降りてくる
028 青空を動かさぬよう魞を挿す(*)
029 春光やみなと小さき竹生島
038 担任はななつ年上初桜
041 三歳の歩幅に合わせ青き踏む
101 逝ったこと忘れ冬瓜盛り分ける
110 城一つくれてやろうか鰯雲
127 心臓に手足が生えて阿波踊(*)
128 月光が固まらぬよう搔き混ぜる
136 雪ばんば震えて止まる洗濯機
137 懐手笑いどころを間違える(*)
142 小春日や仔犬のように褒められる
143 金継ぎのような夫婦でクリスマス

 少し鑑賞しよう。

028 青空を動かさぬよう魞を挿す(*)
029 春光やみなと小さき竹生島
 琵琶湖の景である。「青空を動かさぬよう」で湖面の静けさが見えて来る。佐藤さんは「・・・よう」という喩が上手い。〈128 月光が固まらぬよう搔き混ぜる〉〈142 小春日や仔犬のように褒められる〉〈143 金継ぎのような夫婦でクリスマス〉などである。そして、その喩が機知に富んでいる。
「竹生島」の「みなと」は「港」と言うには如何にも小さかった記憶が、筆者にもある。

127 心臓に手足が生えて阿波踊(*)
 とくに男踊りを想像すると「心臓に手足が生えて」がぴったりな描写である。阿波踊りの句は沢山あるが、この句、喩が珍しく、筆者イチオシの句である。

137 懐手笑いどころを間違える(*)
 少し間が合わなかったときの微苦笑を思わせる。「懐手」という季語の配合も上手い。この句の場面とは違うが、翻訳なしの映画を見ていて、周りの母国語人が一斉に笑った場面で、なぜ面白いのかが分からなくて、戸惑ったことを思い出した。

142 小春日や仔犬のように褒められる
 ここにも「ように」が出て来るが、「子犬のように褒められる」という喩が見事。仔犬の具体的な形容は何もないが、可愛さがよく分かる。

 楽しい句集でした。

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この記事へのコメント

林誠司
2020年02月03日 16:25
ご鑑賞いただき、ありがとうどざいます!私も「魞をさす」の句、好きです。