藤原龍一郎歌集『202X』

 藤原さんが10年ぶりに歌集を上梓された(令和2年3月11日、六花書林。この日付にもなにか意味がありそう)。氏はご承知の通り藤原月彦という名の俳人でもある。
 筆者(=栗林)は短歌には詳しくないので、透徹した評は書けない。だが就中、俳句を下敷きにした氏の短歌を見つけ、楽しく読ませて戴いた。


藤原月彦歌集.jpg


 藤原さんは、1990年、短歌研究新人賞に短歌30句「ラジオ・デイズ」をもって応募、見事、賞を獲得された。同賞は、中井英夫が創設し、中条ふみ子、寺山修司らが発掘された歴史的な賞で最高の登竜門なのであった。氏は38歳であった。
 藤原さんの短歌は、氏が現在「短歌人」の編集者でもあることを知ると、なおのこと現代社会へのメッセージ性をもって迫って来る。筆者(=栗林)にとっての短歌は、素朴な万葉集はあるものの、古今和歌集以来の伝統的・宮中的な、叙景的な、あるいは個人の恋慕・愛惜を美しく描くものと思っていた。だが考えてみれば、現代ではもっと強烈に社会にメッセージを発する詩形なのだと分かる。俳句には社会性俳句というカテゴリーがあって、それが前衛俳句にとってかわられ、それも花鳥風月的伝統俳句に、今は戻ってしまっている。
 藤原さんの短歌は、素人の筆者の感受の枠を超えるものが多いのだが、刺激的語彙をふんだんに使い、政治や文化を痛烈に批判したものが多い。それは藤原さんの強烈なメッセージであり、俳句が短いがために諦めたことを、より長く言える短歌によって実行されている。そのメッセージを読者に深く理解してもらうべく、長い前書きがついている作品が多い。そして、想いは31音の枠をはみ出す勢いなのである。

 さて、集中、他者の俳句をベースにした氏の短歌があったと書いたが、それを紹介しよう。

028 「手と足をもいだ丸太にしてかへし」台場、横浜カジノ綺羅綺羅
 鶴彬の川柳に基づいている。政府の、あるいは首長のカジノ施設誘致運動への批判と取れる。
048 大政翼賛会日本文学報国会 翼賛のその翼がウザイ
 高浜虚子や水原秋櫻子らの名が連なった俳句部会もあったと記憶している。
093 蝶墜ちてまた蝶墜ちてノイズまたノイズ絶えざる開戦報道
 富沢赤黄男の『天の狼』による。
093 散る桜海青きゆえ海に散り召集令状いずこより来る
 高屋窓秋の『白い夏野』による。
094 憲兵の前にて転び特高の前にて転びああ愛国者
 渡邊白泉『白泉句集』による。
102 向日葵の数限りなく立ち枯れて向日葵畑そのジェノサイド
 赤尾兜子『歳華集』の〈瀕死の白鳥古きアジアの菫など〉による。
102 モニターは百鬼夜行にあらずして最前線へ赴く国防軍
 同、〈軍の影鯛焼きしぐれてゆくごとし〉による。
102 文弱は銃後の街をさまよいぬ恥ずかしながら雨ニモ負ケズ
 同、『玄玄』の〈火を焚くや狼のほろびし話など〉による。
113 下村槐太「死にたれば人きて大根煮き始む」三沢光晴マットに死せり
 「6月13日」の前書きあり。
152 戦争は廊下の奥に立っていて「意志の勝利」もすぐそこにいる

 大変に刺激的な歌集でした。多謝。

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