小川弘子句集『We are here』

 小川さんは坪内捻典さんの「船団」の人。この句集のほとんどが「船団調」の軽快な作品である。以前は故豊田都峰「京鹿子」主宰と縁があったらしく、そのころの作品も、後ろの方に入集されている。ふらんす堂、2020年3月26日刊行。表紙は、ふらんす堂らしい瀟洒なハーフ・トーン調。跋は坪内さんが、小川邸での句会の様子などを書いている。
 作品を通読すると、口語調で軽快・明快である。カタカナが多く、海外生活の端々が良いアクセントとなって表れている。

小川弘子句集.jpg


 帯に紹介された句は次の10句。

  ボジョレヌーボー中原中也の顔してる
  アステカのタトゥーを腕に稲を干す
  雪の原でんぐり返って西田幾多郎
  亀鳴くや君はロックな公務員
  未踏地だ彼は穀雨に入りゆく
  大阪の見える高台鶯餅
  草引いて無声映画の中にいる
  青石一つ天から落ちて夏の庭
  チャーチルも子規も大食冷し瓜
  We are here We are here 夏鶯

 筆者(=栗林)の共感句は次の通り。(*)印は右と重なったもの。

008 足の裏合わせっこして柿若葉
010 プチトマト転がり落ちて偏頭痛
010 洋行といわれし頃のパナマ帽
012 オーディコロンたっぷり合歓は咲いたかも
014 がぼがぼの黒靴少年巴里祭
015 今の音たしかに蟬の墜ちる音
015 蟬しぐれ手足の長い母子連れ
022 四人目を前向き抱っこ秋日澄む
023 秋彼岸ぞくぞく出てくる寺の猫
024 太刀魚は広島湾から語尾上げて
026 神無月ストーンヘンジはゼロ番地
029 そういえばわが家は平屋山に雪
032 目隠しは襲名手ぬぐい福笑い
035 パンを切るギザギザナイフ春が来た
036 去りながら振り向く猫よ梅真白
037 有次の奥までずずっと冴え返る
046 朝寝してマーマレードの甘いこと
047 春愁や遠くで電話鳴っている
056 鋏よく落ちる日であり春うらら
058 柿若葉竹刀袋のハローキティ
074 短編は突然終わる猫じゃらし
080 子を抱いてはみ出している大根葉
103 亡くなった猫も来ているげんげん田
109 草引いて無声映画の中にいる(*)
111 We are here We are here 夏鶯(*)
119 熱帯夜ルソーの密林うろつくよ
151 まな板を斜めに干して柿若葉

 筆者の好みに合う句が沢山あった。日常生活から滲んでくる題材が豊富で粋なのだ。気づきが軽快でユニークなのだ。配合の妙が至る所で働いているのだ。描写が行き届いているのだ。

109 草引いて無声映画の中にいる(*)
 庭の草取りを終って、しばし茫洋と物思いに耽っている。何とはなしに、むかしの出来事が走馬灯のように浮かび上がってきた。音は聞こえない。ある程度年を取ると、こういうことがままあるのである。筆者も同年齢なのでよく分かる。ことの軽重にかかわらず、脈絡もなく、いろいろなことが思い浮かぶのである。至福のひとときだと思いたい。

111 We are here We are here 夏鶯(*)
 この句集の表題となっている。この句が出来たときの経緯を知って、より好ましく思った。亡きご主人に縁のあった土地を家族と共に訪れた際、夏鶯がしきりに鳴いていた。それに応えるように、皆で「We are here We are here」と叫んだのだそうだ。和訳すれば「ここよここよと夏鶯」で、さあ、上五をなんとしよう? 思いが膨らんだ。

151 まな板を斜めに干して柿若葉
 俳句を始めて間もない頃と思われる作品から一句戴いた。日常の軽めの句である。配合の季語「柿若葉」が上手い。この明るさと清潔さ。「斜めに」の軽妙さ。「船団」とは違うやや古い文体の句から、好きな句を一句選んだ。

 とても楽しい句集でした。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 5

面白い 面白い 面白い 面白い 面白い

この記事へのコメント