中西夕紀句集『くれなゐ』

 中西さんは結社「都市」の主宰。宮坂静生、藤田湘子に師事し、「晨」などに所属しておられる。2020年6月30日、本阿弥書店発行。第四句集である。

中西夕紀句集.jpg


自選十二句は次の通り。

  夕映の窪みに村や春の富士
  垂るる枝に離るる影や春の水
  かきつばた一重瞼の師をふたり
  茶柱のやうに尺蠖立ち上がる
  青嵐鯉一刀に切られけり
  店奥は昭和の暗さ花火買ふ
  百物語唇なめる舌見えて
  旅にゐて塩辛き肌終戦日
  刃となりて月へ飛ぶ波沖ノ島
  ばらばらにゐてみんなゐる大花野
  日の没りし後のくれなゐ冬の山
  山襞を白狼走る吹雪かな

 筆者(=栗林)の共鳴句は次の通り。

010 花びらの水くぐらせて魚捌く
018 結はれゆく髪つやつやと祭笛
022 葦戸より手が出て靴を揃へけり
023 空耳に返事などして涼新た
029 鹿の声山よりすれば灯を消しぬ
031 あをあをと雪の木賊の暮れにけり
036 雪掻きに古看板を使ひをる
073 ゴム長の一人加はり大試験
074 信号に止まり狐と別れけり
109 さみだれのあまだれのいま主旋律
120 ばらばらにゐてみんなゐる大花野(*)
122 膝で折る枝のこだまや冬の山
136 勝ちしこと馬にもわかり春の風
175 逢はぬ間に逢へなくなりぬ桐の花
185 日の去れば月に干さるる茸かな
192 日の没りし後のくれなゐ冬の山(*)

 一読、安心して読める句が沢山の第四句集である。さすが主宰を務めておられる方。宇佐美魚目にかかわる、ほのぼのとした句がある。よき師であられたのであろう。

 選が重なった二句を鑑賞させて戴く。

120 ばらばらにゐてみんなゐる大花野(*)
 大勢で吟行にでも行かれたのであろう。皆それぞれ句想を練りながら、適当な距離を置いて、散策している。没我的ですらある。後に集まって句会でも開くのであろう。だから、確かに全員がいるのだ。「ばらばらにゐてみんなゐる」が言い得て妙。「大花野」だから、遠景には山が見え、空も明るい。雲はゆっくり流れている。
 筆者は勝手に吟行を思ったが、花野だから、浄土にも通じよう。そうすると、「みんな」は、父祖やうからなのかもしれない、とも思い返している。どちらにしても、筆者にとってイチオシの句である。

192 日の没りし後のくれなゐ冬の山(*)
 この句集の表題となった一句。冬の夕茜は眩しいほどである。その眩しさも日没前のわずかな時間。山の向うに日が隠れると、山影が「くれなゐ」に染まる。それもすぐに消えてゆく。その「くれなゐ」を惜しみながら、それに想いを託しているようである。
 
 とても落ち着いた、安定した作品をたくさん見せて戴きました。多謝です。

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