柏柳明子句集『柔き棘』

 柏柳さんは、1996年以来、石寒太主宰の「炎環」の人。2012年に現代俳句新人賞、14年に炎環賞を得ている。この『柔き棘』は『揮発』につぐ第二句集である(2020年7月19日、炎環編集部編、紅書房発行)。序文は石主宰。

柏柳明子句集.jpg


 自選句は次の10句。

  自画像に影を足したる余寒かな
  後ろ手に桜みるとき皆ひとり
  遠き虹渋滞すこし動き出す
  夜濯や別の地球にゐるごとし
  台風圏四角くたたむ明日の服
  踊子の闇をひらいてゆく躰
  無患子を拾ふきらひな子のきれい
  抱きしめられてセーターは柔き棘
  しばらくは夕日の寒き部室かな
  書くことは傷つくること冬の空

 筆者(=栗林)の共鳴句は次の通り。序文も自選句も読まずに選んだ句なので、(*印)のように二句重なったのは、嬉しい限りである。

018 てのひらの湿つてゐたり鳥渡る
019 永遠を口にするとき檸檬の香
022 次々と傘をひらきて卒業す
028 ララバイの匂ひかすかに革ジャンパー
033 高きより名前を呼ばれ夏休
034 水遊ときどき父へ手を振れり
057 通販の箱のすかすか花八手
061 電車から電車の見ゆる麦の秋
079 台風圏四角くたたむ明日の服(*)
100 雪もよひ夫へリモコン向けてみる
136 しつけ糸抜けば銀漢ひろがれり
142 後ろ手に桜みるとき皆ひとり(*)
146 月白や手の甲回すフラメンコ

 重なった二句を鑑賞しよう。

079 台風圏四角くたたむ明日の服(*)
 あとで気が付いたのだが、この句集の帯に選ばれている句であった。序文で主宰もこの句を鑑賞している。筆者も同様な鑑賞なのだが、この句には明日への作者の期待が感じられた。台風の目が過ぎ去れば、明日は秋晴れの旅行日和になるのだ。ブラウスを畳んで丁寧に手熨斗している。今は台風裡なのだが……若干の不安もあるのかもしれない。その微妙さがこの句の手柄だ。明日は旅行だとは書かれていないが、読者の私は勝手にそう思っている。

142 後ろ手に桜みるとき皆ひとり(*)
 後ろ手をして何かを見ている人は、たいていが孤独である。それでいて無防備でもある。屈託もない。桜を見ながら、過ぎし日を懐かし気に見ている。二人連れであっても、後ろ手はあり得るが、桜を二人で見る気分は、一人で見る気分よりも前向きであろう。この微妙な差を「皆ひとり」と言い切ったところが良かった。内面に迫る一句。

 もう一句鑑賞したい。

061 電車から電車の見ゆる麦の秋
 郊外電車に乗ると、よく遭遇する景なのに、俳句に詠まれたのを見たことがなかった。何のこともない平凡な景がこうも正直に詠まれると、感心してしまう。波多野爽波の〈鳥の巣に鳥が入ってゆくところ〉と同じで、平凡でありながら非凡な句となった。「麦の秋」も成功している。筆者イチオシの句。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント