伊藤敬子句集『千艸』

 この句集『千艸(ちぐさ)』は、令和二年七月二十五日、角川文化振興財団発行とある。小生には七月二十二日に恵送戴いた。そして、伊藤敬子さんは、この令和二年六月五日に亡くなられたと「あとがき」にあった。七月二十三日に届いた「俳句」八月号には追悼記事が載っていて、片山由美子さんらが書いている。
 こころよりご冥福を祈り、ご遺族の方々にお悔やみを申し上げます。
 伊藤敬子さんは「笹」の創刊主宰。師系は山口誓子・加藤かけいに繋がる。山本健吉賞など多くの賞を受け、著作も多い。文学博士であられた。名古屋がお好きな俳人だった。


伊藤敬子.jpg

 帯に引かれた10句は次の通り。

  乾杯は顔より高く年はじめ
  白魚や遠きむかしの桑名浜
  現し世を発ちゆく姉へ春の蘭
  しんにゆうを墨足さず書く青簾
  西日濃しニースの浜に靴を脱ぐ
  徒歩ゆくや千艸の風に裾吹かれ
  奔流は北へ貫く秋の風
  着ぶくれて余呉湖をめぐる孤愁かな
  冬至餅はらからの日もはるかなる
  木の家に住み床の間に松飾る

 筆者の感銘句は次の通り。偶然(*)印の二句が重なった。

021 ほんのりと焦げ目も甘き初諸子
022 初燕来るから水のきらめくから
024 安曇野の堰いくつ越ゆ春の水
030 花万朶水の近江の晴れわたり
040 魞挿すやうすうす遠き比良比叡
062 白牡丹物音させぬやうに住む
067 緑陰や沓脱石のよき高さ
085 明日は着る越後上布に風とほす
120  広島
    秋天や折鶴のみな口つむぐ
126 菊の衿合はせてもらふ菊人形
128 藻にすだくわれから聞かむ安芸の秋
131 柿の実の実りつつあり国境
152 人の世のうつくしかれと冬の虹
157 青竹を花瓶としたる年用意
167 木の家に住み床の間に松飾る(*)
170 乾杯は顔より高く年はじめ(*)
184 藁苞の藁の香ほのと冬牡丹

 重なった二句を鑑賞したい。
 
167 木の家に住み床の間に松飾る(*)
 お正月の景。つくづくお正月は日本間が合うと思う。特に、長期出張で外国から帰ってきたときなどは、強くそう思う。木の家、紙の障子、畳の香、床柱の艶。正月の掛け軸がある。松は大王松だろうか? それとも五葉松? このような住まいの環境を大切に思う。

170 乾杯は顔より高く年はじめ(*)
 これもお正月の句でした。伊藤さんは、健康を祝し、一年の無事を願い、乾杯したのでしょう。家族が集まっているのでしょうか、それとも初句会の場でしょうか。平明な句で、その場の雰囲気が私に伝ってきた。

 あと二句に少し触れたい

022 初燕来るから水のきらめくから
 この句の「来るから」「きらめくから」のリフレインの文体に惹かれた。それでどうなったかは書かれていない。読者が想像するのである。

062 白牡丹物音させぬやうに住む
 この繊細さ! 物音を立てれば、すぐに白牡丹の花弁が、ほろりと零れそうなのだ。この句集には、このような静寂さが通底している。
筆者のイチオシの句。

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