志摩陽子句集『風の行方』

 志摩さんの第二句集である(令和二年七月二十六日、文學の森発行)。平成二年から「遠矢」「濱」を経て、大輪靖宏さんの「輪の句会」に入り「円座」から高野ムツオ主宰の「小熊座」に入り、現在に至っている。帯文は大輪さんが、序文はムツオさんが書かれている。
 序文を読むと、志摩さんはNHK俳句講座講師をなさっておられ、仲間の津高里永子さんの誘いで「小熊座」に入られたよし。筆者(=栗林)も同じ結社に属しているので、誌上の仲間である。

志摩陽子句集.jpg


 高野ムツオ主宰の抄出した十五句は次の通り。

  花疲れ癒すに花を見てゐたり
  霧押して馬の匂ひの近づきぬ
  諸膝の座して豊かや年賀客
  地のぬくみ分け合ふごとし二輪草
  繋留の船のぐらりとちやつきらこ
  ばあさんの馳走ですがな浅蜊汁
  親つばめさぞかし腹の空くだらう
  潮風のかけらとなりて夏落葉
  宙に星地には鐘の音去年今年
  車前草の花踏まれても轢かれても
  花の夜の風の港に船きしむ
  青き踏む島の向かうに島浮かぶ
  白百合の白をまぶしむ旅疲れ
  蒼穹は永久のあこがれ水馬
  陽と風に磨かれ滝の凍てにけり

 筆者の共感した作品は次の通り。(*)印はムツオさんの抄出句と重なった。

028 耳よりも大きな耳輪秋暑し
030 霧押して馬の匂ひの近づきぬ(*)
048 夕日照り竿燈めきぬ山の柿
085 木星の散るやさはさは風を生み
100 ばあさんの馳走ですがな浅蜊汁(*)
102 親つばめさぞかし腹の空くだらう(*)
109 睡蓮に眠りを誘ふほどの風
123 画用紙に笑ふ太陽こどもの日
125 あをあをと千曲流るる涼しさよ
134 時雨るるやはやばや灯る駐在所
147 白百合の白をまぶしむ旅疲れ(*)
154 安曇野の風を翼に青鷹
158 佐久鯉の跳ねて冬空あをあをと
179 町の灯も汽笛も遠き霜の夜

 一読した感じでは、志摩さんの句の味は、やや乱暴な言い方を許して戴ければ、「小熊座」のやや右より、「輪の句会」の中央やや左よりといった感じで、言いかえれば、バランスのよく取れた句柄のように思えた。モチーフはなんといっても「風」。いろいろな風を詠んでいるが、優しい風が多い。

 好きな句を鑑賞しよう。

030 霧押して馬の匂ひの近づきぬ(*)
「霧押して」が上手い。霧の中から悠然と現れたのだが、その馬身には霧がまとわりついている。まさに「押して」出てきた感じ。つぎに作者は匂いを感じた。馬が発するあの特有な匂いである。視覚と嗅覚に働く見事な一句。

100 ばあさんの馳走ですがな浅蜊汁(*)
 どこかのお宅か店で、「浅蜊汁」を馳走になった。他にメインの料理があるのだろうが、おばあさんがサーヴィスに振舞ってくれたのかもしれない。素朴なセリフがそのまま佳句となった。素直な句。授かった句。

102 親つばめさぞかし腹の空くだらう(*)
 雛燕が大きな口を開けて待っている。俳人は、普通はそこを詠む。だが、志摩さんは母燕を詠む。お母さんだってお腹を空かせているに違いない……と。

147 白百合の白をまぶしむ旅疲れ(*)
 下五の「旅疲れ」が効いている。どんな旅だったのかは書かれていないが、白い百合から想像するに、ひょっとして、どなたかが亡くなった、悲しい旅だったのかもしれない、と思った。むしろ違っていることを願うのだが、読者の読みの勝手はやむを得ないことで、許されたい。

134 時雨るるやはやばや灯る駐在所
 季語の「時雨るるや」がこの句の雰囲気を支配している。筆者は田舎の駐在所を想った。客観写生的な句でありながら、ノスタルジー豊かな詩的な句。030と同様、筆者イチオシの句である。

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